リハビリにおいて接触刺激は重要になります。接触刺激を考える上で”皮膚”は欠かせない要素です。今回改めて調べてみました。
「皮膚」について簡単にご紹介します。
皮膚の受容器と機能
皮膚は人体最大の臓器として、外界と身体を結ぶ重要な役割を担っています。触覚、圧覚、痛覚、温度覚など多様な感覚を司る受容器が分布し、身体部位によってその密度や機能が大きく異なります。
皮膚の感覚受容器の種類と特徴
触覚・圧覚受容器
- マイスナー小体:軽い触覚、振動を感知
- メルケル盤:持続的な圧刺激を感知
- パチニ小体:強い圧覚、振動を感知
- ルフィニ終末:皮膚の伸びを感知
- 毛包受容器:体毛の動きを感知
痛覚・温度覚受容器
- 自由神経終末:痛みを感知する侵害受容器
- 温度受容器:温覚・冷覚を感知
- 特徴:全身に広く分布、順応しにくい
有毛部と無毛部の違い
特徴 | 有毛部(腕、脚、体幹) | 無毛部(手掌、足底、指先) |
---|---|---|
主な受容器 | 毛包受容器、触覚盤、パチニ小体、ルフィニ終末 | マイスナー小体、メルケル盤、パチニ小体、ルフィニ終末 |
特有の受容器 | 毛包受容器、C触覚線維 | マイスナー小体、メルケル盤 |
感覚の特徴 | 体毛の動きや振動、広範囲の刺激を感知 | 細かな触覚や圧覚、表面の変化を高精度に感知 |
角質層の厚さ | 薄い | 厚い |
主な役割 | 体表面の広範囲監視、社会的触覚 | 精密な触覚識別、物体操作 |
身体部位による受容器分布の違い
高密度分布部位
- 指先・手掌:物をつかむ、操作する、質感を感じる
- 口唇:食物の温度や異物の侵入を察知
- 足底:歩行やバランス保持、地面との接触感知
これらの部位では、細かな触覚情報が必要なため受容器が高密度に分布しています。
低密度分布部位
- 背中・殿部:広い面積の一般的な感覚検知
- 体幹・四肢近位:全体的な環境変化の検出
受容器密度は低めですが、姿勢制御や環境変化への対応に重要な役割を果たします。
順応速度と機能への影響
速順応型受容器
例:マイスナー小体、パチニ小体
- 持続的な刺激にすぐに慣れる
- 振動や物体の動きを敏感に検出
- 表面の変化や動的刺激の識別
遅順応型受容器
例:メルケル盤、ルフィニ終末
- 持続的な刺激を長く感じ続ける
- 圧力や皮膚の伸びを検出
- 物の形や硬さの認識
日常生活での具体例
- 腕時計の装着感:最初は強く感じるが、速順応により慣れる
- 物の滑り検出:速順応型受容器が動きを素早く感知
- 持続的な握力:遅順応型受容器が圧力を継続監視
- 痛みの持続:痛覚受容器は順応しにくく、危険を継続警告
皮膚の基本機能
保護作用
機械的・物理的外力、化学刺激、微生物、紫外線から身体を保護し、体内からの水分喪失も防ぎます。
感覚機能
触覚、痛覚、温冷覚、かゆみなどの感覚を受容し、外界の情報を脳に伝達します。
体温調節
発汗や立毛筋の収縮によって体温を調節し、体内環境の恒常性を維持します。
免疫機能
ランゲルハンス細胞などの免疫細胞により、外来異物の侵入を感知し免疫応答を開始します。
皮膚の進化史
主要な進化段階
約3億6千万年前(デボン紀後期)
両生類の陸上進出:角層(角質層)を獲得し、水分蒸発防止と紫外線・微生物からの保護機能を獲得。陸上生活が可能となりました。
爬虫類への進化
強固なバリア機能:より強固でバリア能の高い角層が進化し、乾燥した環境への適応が進みました。
哺乳類への進化
保湿機能の獲得:毛や乳腺の発達とともに、柔らかく保湿性の高い角層が出現。水分保持能力が大きく向上しました。
霊長類・ヒトへの進化
機能の高度化:体毛の減少、表皮と真皮の厚化、弾性やハリの増加など、より高度な皮膚機能が進化しました。
皮膚と外部環境の相互作用
多層防御システム
皮膚は単なる受動的なバリアではなく、以下の能動的機能により外部環境と相互作用します:
物理的バリア
角質層の三重防御層(pH勾配)により、1日約500mlの水分喪失を防ぎ、UVBを98%吸収します。
感覚ネットワーク
5種類の感覚受容器が1秒間に最大1000個の信号を脳へ伝達し、環境変化への即応を可能にします。
免疫監視
ランゲルハンス細胞が病原体を捕捉し、24時間以内に免疫応答を開始します。
生化学的適応
皮脂膜(pH4.5-6.0)が抗菌ペプチドを分泌し、微生物叢のバランスを調整します。
まとめ
皮膚は、進化の過程で獲得された高度な機能を持つ複合器官です。身体部位ごとに最適化された感覚受容器の分布、有毛部と無毛部での機能分化、順応速度の違いによる情報処理の役割分担など、精巧なシステムにより私たちの日常生活と生存を支えています。
現代の研究により、皮膚の角層pH勾配や免疫機能、環境適応メカニズムなど、新たな機能も次々と解明されており、皮膚科学は今後もさらなる発展が期待される分野です。